2011・7・30
安東から足をのばして
何年か前、八月に安東に来たことがあったがその時も暑かった。梅雨があけたばかりで湿気が多いところにかっと陽が射してたまらない暑さ。 尹先生の友だちの車で出かけた。
鳳停寺へ行く道。昨年の五月に参ったときに通った道。その途中にある茶道の先生のお宅に寄る。青い稲田が山あいにひろがるなつかしい風景。
十年ぐらい前浮石寺の庵子でお坊さんにお茶を入れていただいた時からその空間としつらえにすっかり魅了されてしまい、智異山のお茶を買ってきたり、庵子にあったような低くて長いテーブルをほしがるようになってしまっている私はよろこんだ。
窓の外にはねむの木に花が咲き、カラスアゲハが乱舞している。突然の訪問なのに快く迎えてくださり、お茶をいただく。
立派な韓屋に寄る。安東金氏の集会所と言ってしまえばなんだが一族の誇りが詰まっているような建物。赤松の山が迫る。韓国の松は日本のように松喰い虫にやられていなくて、山にあって美しい姿である。
吊るされている太鼓のいびつさが何とも言えない。
濃いピンクのおいらんそう。小学生のころの夏休みを思い出してなつかしさがこみあげてくる。 そしてもちろん鳳仙花。私のつぼにはまる花が咲いている。
2011・7・29
安東布
「安東布」の資料展示館にいく。安東市内から少し郊外の田園の中。
大麻からつくられる麻をサンベという。夏の衣服には最高のものだとか。大麻と言えばあの麻薬を思ってしまうが、栽培は厳重に管理されているのだそうだ。
モシは夏のものだがサンベは冬でもあたたかく着ることができるのだという。
ちょうどハルモニたちが作業をされている。気持ちよく作業を見せてくださった。
麻の皮をはぎ、細くさいて糸にする。それを唾液をつけて膝の上でつないで績んでいく。気の遠くなるような仕事。
ハルモニがわざわざ機に座って下さった。織る部分だけ、布切れで湿らせるところも見せてくださる。やっぱり麻には湿気が必要なのだ。
織りあがったサンベは生成というか、薄茶色をしている。陽にさらすと白くなるのだそうだ。 資料館のショップで売られていたサンベにつけられていた値段をみてびっくり。高価。
サンベを崔先生は惜しげもなく使って藍染めをされている。
2011・7・28
展示室から
からむし(苧)からつくられるモシ。大麻からつくられるサンベ。モシは以前何度か産地の韓山をたずねたことがあるが、サンベはここ安東が産地で「安東布」として名高いのだそうだ。 そのサンベが染められている。チョガッポに仕立てられた藍の色の諧調がすばらしい。
収納ケースから取り出して見せてくださったヌビ。シルクの藍ぞめ。その色もすばらしいがヌビの縫い目の細かさに注目してしまう。職人技としか言いようのない細いヌビで、全長を思うと気の遠くなるような時間がそのヌビの施されたシルクにながれている。
崔先生は藍とともに紅花染めもされている。藍の青と紅花の赤、黄、それにどんぐりのタンニンでほとんどの色は出せますとおっしゃる。 見事な手技に驚くばかり。
そして崔先生は「紺紙」について熱く語られる。金泥で書かれた仏教の経典のあの紺紙である。紺紙を作る技術は失われていて、今あるのは紙に漉いた後で染めたものがほとんどであるが、そうではなく、紙の繊維を藍ぞめしてから漉かなければ紺紙ではない。そうやって作られた紺紙は年を経るにつれて深い色になるとおっしゃる。
高麗時代の紺紙の経典は日本に持ち去られていて、韓国にある経典は偽物が多いとおっしゃる。
崔先生の染められた紺紙も展示されている。
2011・7・27
染める
作業場の甕に藍が建っている。泥藍を草木灰のアルカリで発酵させ熟成させたもの。徳島でつくられる蒅を使ったやり方ではない。
「こちらの甕のほうが熟成がすすんでいます。色がちがうでしょう」ふたつの甕に白生地を入れて色のちがいを見せてくださる。熟成のすすんだ甕の色は青が前に出てこないで抑えた深みがある色。
「この麻は三十回ぐらい染め重ねています」 甕からあげられた麻布はタイルの床に広げられて空気に触れて色を深めていく。
「藍染めをはじめて三十年になります。八年間は失敗の繰り返しでした」 あっさりとおっしゃる。
2011・7・26
朝食
ダム湖畔に建つ「伝統天然発酵染色研究所」。作業場と展示場がある。畑から下ってきて裏口から入り、台所で朝食をいただく。
「ちょっと待ってて下さい。すぐ作りますから」 展示場の藍の色に見とれているうちに手際良く食膳が整う。
ミナリ(芹)のナムルは畑にあった芹をちょいちょいと摘んでつくったもの。醤油とゴマだけで和えてある。油は体に良くないとおっしゃる。茄子も畑から取ってきてナムルに。蓮の葉に包んだ木の実いり五穀米のご飯。蓮の葉の香りがひろがる。
さくらんぼのジャムは湖畔の桜並木のさくらんぼを集めて、七時間炊いてつくったのだそうで、ほろ苦さがあっておいしい。二年経った白菜のキムチ、えごまの葉のキムチ、ワカメと玉葱の味噌汁。どれもおいしい。
「発酵したものは体にいいです。テンジャン、コチュジャン、キムチ。韓国にはないのですが鰹節がいいです」 崔先生は高知から取り寄せた鰹節を削り器で削ってテンジャンクッ(味噌汁)に入れる。 畑の草、スベリヒユや私の畑にもはびこっている名前がわからない草もさっとゆでて食べれば体にいいとか興味の尽きない話をしながらゆっくりといただく。安東はおいしいリンゴがとれるところで、この時期なのにみずみずしい。
窓の外は雑木林。蝉の声がきこえてくる。マグカップいっぱいに入れてくださる韓国緑茶がおいしい。
お昼に軽く食べましょうとだされた葛きり。袋には吉野葛とかかれていて日本のもの。黄粉を好みで入れて冷たい水をそそいだだけで、これがおいしい。
2011・7・25
泥藍
山からの水が藍畑のすぐ横を流れ下っている。この水をひいてくる。
藍の生葉に谷川の水を注いで一日たてば藍の色素がとけだしてくる。
バイ貝などから作られる消石灰を入れて撹拌する。容器のなかの液の色は藍の色に変わっていく。
「ここまでは簡単です」と崔先生はおっしゃる。撹拌を手伝わせていただいたが結構長く撹拌し続けねばならない。「沈殿したものが泥藍です。このままでは染まりません」
藍の葉を刈り取るところから、泥藍を作るところまでを体験させてもらった。なんという贅沢。この時期を選んでここにやって来て良かったと感謝する。
ダム湖にかかっていた霧は晴れて対岸が見えるようになってきた。畑から下って、これから崔先生手作りの朝食をいただく。
2011・7・24
藍畑
早朝五時半、朝霧のたちこめた安東のダム湖を眼下に染色研究所の建物の背後の山の斜面に開かれた藍畑に上っていく。藍が黒々と育っている。
藍の葉を刈り取る作業。崔先生から鎌と笊を渡される。「これくらいのところで刈り取ってください。ほんとは手で摘む方がいいのだけれど」
この時期、朝五時ごろから三時間ほど畑の仕事をし、朝食をとり、そのあとは暑くなるから畑の仕事はしないのだという。東側に山が迫る斜面なので陽が射してくる来るころには仕事を終えているのだそうだ。
藍の薬効からか畑には蚊もブヨもいない。
2011・7・23
安東
東ソウルバスターミナルから出た「安東」行きのバスは土砂降りの高速道路を水しぶきをあげて走る。ここのところ十日ほどずっと韓国は雨が続いて野菜が高騰していると日本で見たSBSのニュースで知ってはいたが確かに雨。
今回の韓国行きの目的はヌビの尹先生を「安東」に訪ねること。そして二月に大阪でお会いした、やはり「安東」在住の染色作家の崔先生の研究所を見学すること。
安東のバスターミナルに着いたのは七時を過ぎていたが、ソウルから南下したからか雨はやんで青空。尹先生と崔先生が迎えに来て下さっている。
夕食のあと、ここに泊ってくださいと案内されたのは洛東江の上流になるダム湖のほとりにある韓屋。
韓国の千ウォン札に描かれている儒学者「李退渓」の直系一四代目に当たる方の家で、ダムの底に沈むことになったため移築されて「安東民俗村」の中にその築百五十年の韓屋はある。崔先生はその一四代目の夫人である。
「私は染色の研究所で藍の世話をしながら寝るので、安東にいるあいだはここをお使いください。明日の朝は五時に迎えに来ますので一緒に畑に出て藍の刈り取りをしましょう。」
と、私はこの文化財のような家で三日間過ごすことになった。
2011・7・13
鳳仙花
きのうは夕立ちがあった。
夏の庭の花。やっぱり鳳仙花と百日草はかかせない。
こぼれ種で今年も大きくなって花をつけた。
韓国、安東の河回マウルの土塀の際に咲いていた鳳仙花。ソウルの三清公園に植えられていた鳳仙花。どれも昔の記憶にある一重のやわらかい花色。あの色の鳳仙花がほしい。
明日から安東とソウルにいく。
2011・7・9
梅雨明け
梅雨があけたそうだ。とたんに強い陽ざしの夏。
ダリヤが咲き始めた。
上佐曾利のダリヤ園でこの色と決めて注文した球根に花がついた。
秋に見た色と少し違うようではあるが良い色と姿。
2011・7・8
三光丸
奈良の御所に行った。葛城山が迫る。昔見た『橋のない川』の映画、葛城山が画面いっぱいに映し出されていた。
山裾の広大な敷地に加工場や資料館を構える「三光丸」本店による。越中富山とほぼ同じ頃、江戸時代に大和の「置き薬」がはじまる。「三光丸」は大和売薬のひとつで、歴史は古く、その名は後醍醐天皇に由来するという。
懐かしいデザインの袋に入った試供品とパンフレットをいただいた。子どもの頃、風をひいたりおなかをこわすと置き薬の世話になった。越中富山の「廣貫堂」と大和の「行者丸」の置き薬の箱をはっきりと覚えている。
2011・7・7
ズッキーニ
雨の中、畑の草取りをする。雨でゆるんだ土、草が面白いように抜ける。草の中からズッキーニが大きくなって出てきた。
2011・7・3
畑のハーブ
なんとか草に巻かれて弱弱しくなっていた綿を助け出した。ひと雨きてほしいののにどんよりと曇り空。かんかん照りではないので地面にへばりついて草をむしった。
畑の端に昨年ハーブを植えた。今年大きく育ち花をつけた。ハーブは雑草に負けてはいない。
2011・7・1
ハルシャギク
もう七月。ハルシャギクが風にゆれる。
版画制作に精をだしてるうちに畑はほったらかしに。
雑草園と化した畑を茫然とながめる。どこから手をつけたらいいものか。熱中症にかからぬように朝の涼しいうちに草をむしらねば。
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